2020年によく聴いたアルバム作品をリストにしました。作品の情報と個人的な感想を書いています。つらつらと偉そうな事も言ってますが、興味を持つきっかけやリスニングの参考になれば幸いです。
※表記は『アルバム名』-アーティスト名
20.『Is It Selfish If We Talk About Me Again』- Kacy Hill
G.O.O.D. Musicを退所し独立の道を選んだケイシー・ヒルのセカンドアルバム。前回のミニマルぽいサウンドとは一転、共同作曲とプロデュースを担当しているFrancis and the Lightsの影響が強く、80年代風シンセからトラップにも近寄った幅の広さがあり音数も多いです。ただそれに対して彼女の声がより一層良く響いているのが印象的。発表前には自分のやりたい事を素直に表現できたと言っていました。思えばジャケットの表情もどこが清々しく、ピュアさが感じられます。
19.『The New Abnormal』- The Strokes
デビューから20年間『Is This It』と比較され続けるストロークスですが、あのアルバムもたまたま時勢に乗れただけで、ジュリアン・カサブランカスの自分の嗜好を彼なりのクールさで表現しようとする姿勢はずっと変わっていないように思います。ビリーアイドルやサイケデリック・ファーズなどの80年代オマージュを感じる本作もこれまでと同様に彼の好みが強く表れた作品です。前作からの7年間、ジュリアンが才気を爆発させていたThe Voidzはとても魅力的だったし、その成果もここに反映されています。もうモダンエイジを追わなくも、現在進行形の彼らを手放しに好きでいたいと改めて感じさせてくれる一枚です。
18. 『Everything Is Beautiful』/『Everything Sucks』-Princess Nokia
カニエ・ウェストの『MBDTF』収録の「Monster」という曲の中でニッキー・ミナージュが披露したラップは、2010年代のベストヴァースと方々で評されました。驚きの韻の踏み方もさることながら、声とリリックで二面性を巧みに表現したラップを当時何回も繰り返し聴いたのを覚えています。10年後プリンセス・
ノキアはアルバムでそれを体現します。『Everything Is Beautiful』では、より女性的で繊細な側面に焦点を当て
サウンドもネオソウルとジャズの融合のような感じ。『Everything Sucks』では、強靭なビートの応酬でふぁっくの連発。
ノキアはこの二枚を聴いて心の中の自分を見つめてほしいと言います。このような形で心の機微を表現すること自体とても才能のある人だと思いますし、これからが更に楽しみです。
17.『The Imperfect Storm』- Wale
アメリカにおける黒人の現状とその訴えを端的に表したEP。ワーレイはこの作品で人種差別、ポリス・ブルータリティ、更にはパンデミックにも触れています。サウンドはファンク調からしっとり聴けるR&Bまで音楽的な幅もあり楽しく聴けますが、テーマは重いです。"人種の和解"を "恋愛関係 "に置き換えてラップする「EMPTY WISHING WELL」など読み解いていて面白いものもあり、全体的にリリックが冴えてます。6曲18分というコンパクトかつ隙のない構成で、連綿と続くアメリカ社会の不条理に対する強烈なプロテストソング集といえるでしょう。
16.『3.15.20』- Childish Gambino/Donald Glover Presents
ガンビーノの作品はこれまでもコンセプチュアルな作風が特徴でしたが、今回はその風貌を纏いながらも断片的でとっ散らかってる印象です。ただ曲によっては結構好きなものもあって、人類の危機を歌いつつも高揚感のある「Time」のアリアナの歌唱と多重コーラスは素晴らしいし、我が子と愛について語る会話から繋がる「53.49」の歌いラップし咆哮するガンビーノはこれぞという感じがします。『Because the intenet』との相関性なども含め、今後も聴き続けたい作品です。引退しないでね。
15.『狂(KLUE)』- Gezan
音楽を聴くときは仕事や日々のストレスから離れて、非日常感を求めて聴く事が多い中、ここまで日常を感じさせるアルバムは逆に痛快でした。不穏なベース、しゃがれたギターの下地にあるのは踊る事ができるリズムである不思議さ。意図的に汚された
サウンドに無視できないリリックの数々が載った時、これまでにないスリリングな感覚を味わう事ができました。歪んだ秩序に真っ向から対峙した後のラスト曲「I」はどこまでも優しい。これは「持たざる者」へ向けた音楽ではなく、この社会に生きる「一人一人」に語り掛ける寄り添いのミュージックなのです。
14.『4:20』- Mike Dean
古くはUGKから始まり
カニエ、ト
ラヴィス・スコット、フランク・オーシャン諸作のマスタリング、エンジニアも務める敏腕プロデューサーであるマイク・ディーンのインストアルバム。シンセを多用したインダストリアルな作風で、名作コンピ『Cruel Sumer』『Yeezus』期の
カニエのような
サウンドです。1時間33分という眠くなるような長さですが、ふとした瞬間の発見が楽しい。例えば、ト
ラヴィスの「Highest in the Room」のアウトロや
ビヨンセの「Love Drought」のシンセなど相関する点が繋がった時この人の役割を実感します。超多忙のプロデュサーが"ロックダウンで家にいる時間が多くなったから作った"という話も今年らしい。
2018年の夏のイベントでKing Gnuのライブをたまたま見た時は、ここまで大きな存在になるとは思っていませんでした。クオリティの高い楽曲と洗練されつつも人間味のある佇まいは「ぼくらのバンド」感を強く感じさせてくれます。ミクスチャーという言葉自体が死語に近いですが、ファンクやソウルからクラシックまで多様な音楽性は魅力的ですし、何よりグルーヴ感が最高。眩しすぎるリリックも意外といけました。「小さな惑星」から3曲続くストーリー性のある小粋な演出も面白い。若干ボリューム不足を感じますが、メリハリのある構成とバランス感覚は頭一つ抜けてるように感じます。
12.『Floor Seats II』- A$AP Ferg
ラキムやビギーや
エミネム、ケンドリックなど好みに関係なくスキル的にその実力を認めざるを得ないラッパーが存在がする一方で自分の好みの基準には"声質"があります。
2pacやグールー、ゲーム、ビッグショーンの声がそれにあたり、僕の中ではFergもその一人です。
マリリン・マンソンの参加やMVで
デニス・ロッドマンの共演等、ともすれば色物になりかねないポイントも楽しめました。クラブバンガー的なノリの曲が多くて、今年のような閉塞感の強かった年には逆に良かったです。
11.『City on Lock』- City Girls
ドレイクの「In My Feelings」の客演で名を上げたマイアミのチェルミコことCity Girlsのセカンド。リリックはWapも驚きの下ネタ炸裂、享楽的な詞が多い一方で、同時に黒人女性として生きる困難さもラップしています。「Jobs」の"誰かの為になんか働きたくない!自分たちこそがボスだ"というバカっぽくも賛歌的なリフレインも最高。彼女たちの魅力はユ
ニゾンのラップや掛け合いで、そのユニークさが抜群に格好良いです。何度目かのUSフィーメイルラッパー戦国時代の中、とりわけ光る存在だと思います。
10.『Featuring Ty Dolla $ign』- Ty Dolla $ign
ミゲルやスワエ・リーと同じように客演によって信頼を得てきたタイダラ3年ぶりのアルバム。25曲の大容量ですが、雑多に詰め込んだものではなく、むしろ1曲の短さがかえって連続性を感じさせ作品を際立たせています。弟の冤罪を信じて解放の願いを冠した「It’s Still Free TC」から黒人の不当な現状を歌う「Real Life」の流れは圧巻で、いまや鉄板コンビとなったロディ・リッチと
マスタードが華を添えています。蛇足ですが、
Netflixの『SONG EXPLODER』という番組では音楽に対して真摯な彼の姿を見れるのでおすすめです。
9.『Modus Vivendi』 - 070 Shake
2018年の
カニエ・ウェスト5枚連続リリースの客演で注目されたシンガーのデビュー作。タイトルの"Modus
Vivendi "は
ラテン語で"生きる道"や"
生活様式"という意味で、シェイクはそれを自分と恋人の関係にあてがっています。失恋から感情が揺らぐも、その状況をどう受け止めようかというテーマを素敵な比喩を交えて展開します。
サウンドは多彩でKid Cudi感をベースに80年代ディスコ、
Nirvana、ラテンまでオマージュされた
サウンドはノスタルジックな一方で物凄く今っぽい。
8.『Changes』- Justin Bieber
10年前の自分に
ジャスティン・ビーバーを聴いてると言ったら笑われそうですが、心地よく聴けるのだ
からしょうがない。これまでもビーバーの作品はその時代の流行を取り込んでおり、今回もトラップビートを基本としているものの、
R&Bを主軸とした
サウンドが展開されます。
TravisやQuavoのような個の強い面々のパートも地続きの歌モノとしてまとまっているのが面白い。新パートナーへの恋慕の連続は過剰に感じつつも
サウンドと声が良いのでスッと聴けてしまいます。
R&Bとは歌ありきであることを感じさせる力作。
7.『Every Bad』- Porridge Radio
ブライトン出身のバンド、ポリッジ・レディオ2枚目のアルバム。ノイ
ジーなギター
サウンドが特徴で、
ソニックユースやホールに似てると言われればそれっぽいけど、聴き慣れた要素を新鮮なものにしている事こそ彼女たちの強み。荒々しい
サウンドを纏いながらも緩急はあるしメロウなアレンジもあります。簡単なフレーズの繰り返しによるリリックも効果的で皮肉めいたダナのセリフがより刺さります。ハイライトは
Velvet Undergroundの「Heloin」の如く後半にかけて狂気渦巻く「Lilac」。とにかく2020年にこういう音を聴けたことが嬉しい。
6.『Man Alive!』- King Kruel
キング・クルールことアーチー・マーシャルの3枚目の作品。初めて聴いた時はボヤけたアルバムだなという印象を持つも、11曲目「Theme For The Cross」のイントロが頭から離れず、歌詞だけに集中して聴いてみると一気に惹き込まれました。内面の独白ともいえる自尊心の低さや疎外感、娘への愛というテーマがモヤのかかった声で歌われるのには妙な魅力があり、自身の育った町のジェントリフィケーション、そしてブレクジットを通じた英国の変容など外面の描写の上手さに巧さを感じます。このアルバムをビジュアル化した映像作品『Hey World!』も秀逸です。
5.『Savage Mode2』- 21 Savage and Metro Boomin
21 SavageとMetro Boomin躍進のきっかけとなった2016年ミックステープの続編です。基本的には南部トラップを踏襲していますが、本作ではストリングスやホーンのアレンジを加え、
モーガンフリーマンのナレーションにより映画のような雰囲気を醸し出しています。リリックは銃、暴力、ビッチなど
ギャングスタお馴染みのテーマですが、今作は恋人への幻滅や死に至るまで内容を広げています。50centの名曲をモチーフとした「Many Man」、
ディスコサウンドを基調にス
クラッチなども混ぜる「Steppin On」などジャケットと同様に往年のラップファンに刺さる内容に。
モーガンの語りから
ダイアナ・ロスの歌声に繋げる「Runnnin」へのドンピシャのつなぎは唸りました。個人的にここ5年のメインストリームにおけるサウストラップの総括のような作品に感じていて今後トラップ作品をどこまで楽しめるかの試金石になりそうです。
4.『Heaven To A Tortured Mind』- Yves Tumor
イヴ・トゥモアの5枚目のアルバムは実験的で
アバンギャルドな音への感性はそのままに、過去の作品と比べるとより歌が前面に押し出されています。ファンクやソウルを基調としつつも印象的なギターがあちこちで鳴っている為か、ロックテイストを感じ、先鋭的な感覚は
デヴィッド・ボウイのアルバム『"
Heroes"』にも通じます。棘のある曲たちの中に「Kerosene!」や「Strawberry Privilege」のようなしっとりした曲があるところにも惹かれます。混沌の中(拷問された心)には、それを乗り越えるための安らぎや希望が必要なのかもしれません。D.ボウイが"We can be
heroes, forever and ever"と歌った様に。
3.『Miss Anthropocene』- Grimes
"気候変動を擬人化した女神"をテーマにしたコンセプトアルバムで、それぞれの曲に人類に切迫している社会問題をテーマとして置いています。物々しい内容に感じますが、グライムス自身が語るには「気候変動の問題をただの抽象的な運命ではなく、キャ
ラクター化して知覚しやすいようにしたかった」という肯定すべき意図があります。
サウンド面ではこれまでのグライムスに比べると全体的にローテンションですが、テンポに緊張感があって全曲クオリティが高い。美しい
アコースティックギターバラードの「Delete Foever」など意外性もあり、特にラスト2曲の「Before the fever」と「IDORU」の相反するテンションが印象的。世界の終焉の音...と歌う一方で次の曲では愛を語り少し希望を残す感じはこの作品を聴いた後の余韻をより強く残してくれました。
2.『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』- Mom
今から20年後、2040年の終末が迫り来る世界を生きる少年「カルトボーイ」を主人公に据えたコンセプトアルバム。Dean BluntやJPEGMAFIAなど現行の海外アーティストの影響は本人が公言している通りでヒップホップからフォークありサイケあり、特徴的なサウンドエフェクトを多用したおもちゃ箱的感覚はまさに2010年代的。ただそのようなハイブリッド作品はこれまでも沢山あったわけで、根本にあるのはメロディーと詩の求心力です。例えば「レクイエムの鳴らない町」のビートを排した浮遊感のあるサウンドに伴奏される歌声を聴いているとソングライターとしての地力を感じます。魅力的なサウンドにディストピア感がありつつも遊び心のある言葉を載せる楽しさには今年一夢中になりました。
1. 『After Hours』 - The Weeknd
愛憎ともいえる感情が最大限の熱量をもって一枚のアルバムに。僕自身ウィークエンドに対し、シングルアーティストという見方が強かったですが、この作品では各曲が次の曲と連動して、失恋、薬物、罪悪感、羞恥心、成功、そして破滅というテーマを悲劇的でありつつも美しく描いています。サウンド的にはシンセウェイブがアルバムの全編を通して登場し、ミックステープ三部作以来の未来的な感覚とファンキーなリズムの組み合わせが体現されています。ダークでミステリアスなペルソナを維持しつつ、脆弱性がむき出しになった彼の最高傑作といえるえしょう。"辛くても生きていくしかない。何かにしがみついてでも生きてやろう"という姿勢に今年ほど共感できる事は今後ないかもしれません。無責任だろうと"don't be scared to live again"というラインには本当に救われました。
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